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最強劣悪の書「宇宙で一番優しい惑星」 [書籍/漫画感想]

宇宙で一番優しい惑星

宇宙で一番優しい惑星

  • 作者: 戸梶 圭太
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2006/03
  • メディア: 単行本
 
断っておくが表紙はドコモ夏2.0の宣伝ではない。
最初、改造社書店で見つけた時は誤って自然科学分野の棚に配架されてあった。表紙が気になり読んでみると内容はSF小説だった。しかし余りに酷い内容なので買うのをためらっているうちに本棚から消えた、と思っていたら近所の図書館に出現。選書担当は内容をちゃんとチェックしているのか?こんな本が公立図書館にあっていいのかと首を傾げつつ最後まで一気に読んでしまった。
本書はありとあらゆる暴力、殺戮、拷問、SEX、野蛮、苛め、欲望、変態、背徳、悪徳、グロテスク、人間の醜さをこれでもかこれでもかと書き連ねる最低最悪の本だ。そう、題名とは180度反対の内容なのだ。一応、表向きは別惑星の出来事なのだが、出て来る宇宙人は殆ど人間な上に文明内容も飛行機がないという一点を除いて殆ど現代だ。但し泥の海など環境は地球より過酷であるらしい。そして国際情勢への風刺が込められている。即ち舞台となる惑星オルヘゴには3つの国がある。一番貧しい砂漠の国で内乱が絶えず、強国に自爆テロを起こすダスーンがイスラム勢力を表す。豊かだが政府が極めて優柔不断で強国の言い成り、テロ対策も全く行われず報道規制ばかり厳しく、国民にはまるで戦意のないボボリが日本を表す。非常に豊かで軍隊は最強、政府は迅速な対応を行うが、社会が差別と背徳の限りを尽くし人間は冷酷そのもののクイーグが米国を表す。まずダスーンの内乱でじゃぶじゃぶ人が死ぬ。その拷問描写は残忍そのもの。ボボリの吐きそうな日常は今の日本そのまま過酷にした感じ。クイーグ人のおぞましい性の限りを尽くした変態行為は身の毛がよだつ。しかし人々は一様に間抜けで滑稽なためついつい残酷な描写もするりと読めてしまう。字の大きさを変えるなど自由奔放で乱雑な文体だが、そこが陰惨さを逆に薄めてくれる。主人公(皆、愚劣で低俗)もコロコロ変わるがこの場合は変に感情移入しないで済んで良い。そして最後、ダスーンの自爆テロでボボリの人々が物凄い勢いで死んでいく様は圧巻。それに対して政府の対応が「ゴミ箱を撤去する」だったり「陰惨な映像にモザイクを入れる」という実に滑稽かつ無能な対応なのが笑えるし今のテロ対策そのものだ。9.11テロの後、職場で上層部から真面目に回覧された通達は「アメリカ人には近づかない」だったのだから。まるで北朝鮮が攻めて来ても政府が何もしない「半島を出よ」を彷彿とさせる内容だが、あの小説ではまだ日本人に戦意が残されていた。しかしボボリ人には全く戦意がなく、ディズニーランドもどきで遊んでいたりするから救いようがない。やがてダスーンに通じる裏切り者が出て内部崩壊していく。まあ今の日本はこちらの方が近いのかもしれない。なんというか危機感が足りない。弾道ミサイルが列島上空を通過しても手を拱いて見送るしかない国だ。原爆を落とされても大臣がしょうがないと諦めてしまう国だ(”しょうがない”は諦めの早さを美徳と考える日本人の病気だろう。私は世の中に本当にしょうがないことなんて無いと思ってるhttp://blog.so-net.ne.jp/hanarezaru_bibi/2005-12-19)。そして国民の一番の感心時は拉致問題でもイラク情勢でもなくハニカミ王子だったりブートキャンプだったりするわけだ。「真の敗れは、その国の内より敗れたときである。」(吉川英治「三国志」)。そしてダスーンとの戦争のため国内をクイーグ軍に蹂躙されじゃぶじゃぶ金を払わされるボボリの様は今の米軍基地・イラク派遣問題そのものだ。自国内にこれだけ外国の軍隊が占領がされてるのに異常と感じず守ってもらってると思っているおめでたい国、ニッポン。ダスーンは貧しいが信念がある。クイーグは社会のモラルは乱れ切っているが外国に対してだけは強権を発動できる。しかしボボリにはどちらも無い。何も無い国、ニッポン。阿鼻叫喚の地獄絵図のまま何の解決もみないまま終わるこの小説は、そのまま希望もない、世界の果てまで行っても楽園も逃げ場もどこにもない今の地球そのものを表している。
食前に読めば飛び散る身体破壊描写に食欲が無くなりダイエットが進むこと請け合いである。
 

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