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誰が何と言おうと「ブレードランナー ファイナル・カット」 [映画/DVD感想]


先日、新宿バルト9 http://wald9.com/index.html で観ました。
画面は凄く綺麗になっていたけど(特にタイレル社の建物の照明は単に白っぽかったのが青くなっていて非常に美しい)、余計な効果音(電子音、ポワーンとかキュイーンとか、レイチェルとデッカードのラブシーンで特に)が増えて音はいまいち。最後のデッカードをロイ・バッティが助けるシーンでもっとBGMを大きくして欲しかったな。
タフィーズバーの3人のセミヌードの女の追加シーンもぶよぶよしたデブで気持ち悪かった。
今回も都市の中に隠れていると言われるミレニアム・ファルコンを見つけることはできませんでした・・・。
やっぱりデッカードのモノローグが無いと映画がわかりづらい。
あとユニコーンの夢のシーンは減っていた様な。
それにしても何でプログラムが売ってないの?ディレクターズカットの時はちゃんとあったのに。

 あの押井守をして「私は圧倒され、ひれ伏した」と賛美されたSF映画の金字塔「ブレードランナー」。同氏はさらに「SF映画の歴史はブレードランナーを境に過去と現在に分けられた」とまで言っている。確かにブレードランナー以前のSF(「2001年宇宙の旅」など)は、全てが想像上の産物として作られていたが、ブレードランナーでは、非常に現代的な当時の世相を表した部分と、高度なテクノロジーを駆使した未来世界がキメラ状に入り混じって、しかもそれらが全く無理が無い。この近未来SFのリアル観がその後のSF(「未来世紀ブラジル」や「バンカーパレスホテル」など)の標準になったと言える。彼は今でも「ブレードランナーを追いかけている」と述べている様に、攻殻機動隊にもその影響が色濃く現れている。中国や日本、アジアをミックスした混沌とした無国籍な都会の雑踏。更にそれらのカットがストーリーとは何の関係もなく画像に長々と入り込んでくるあたりがそれだ。それこそが彼の言う「映画とはキャスティングやストーリー中心で作るものではなく、カメラに寄って切り取られる世界そのものをもって世に問うもの」というコメントに繋がるのであろう。観客を観たことのない世界観に引きずり込むことによってもはや、物語は一人手に動き出し、そこに理屈や必然性はもはや不用となる。ブレードランナーの世界は、冷静に考えると相当へんてこな世界だ。しかし、それをあの素晴らしい映像美によって現実的な矛盾などねじ伏せる圧倒的な凄さがある。

 私がブレードランナーに最初に出会ったのは幸か不幸かテレビだった。1982年公開当初は全く話題にならなかったため映画館には観に行かなかったのだ。1986年4月14日(月)TBS「月曜ロードーショー」。吹き替えだった(しかしこの吹き替えはかなり貴重らしい)。私は幸運にもこの録画ビデオを今でも持っている。もう何十回となく擦り切れるほど観た。最初に驚いたのは、その映像美もさることながらセオリーの無視である。本来ヒーローであり主役であるはずのデッカードがどこまでもかっこ悪いことだ。武器を持たない女を後ろから撃つわ、タコ殴りにされている所を女に助けられるわ、女に股座で挟まれ首を折られそうになるわ、逃げまくった挙句敵に命を救ってもらうわで、まったくさえない。「アメリカングラフティ」で大口を叩いてレースをした挙句、土手から転げ落ちるハリソン・フォードの出世作を彷彿とさせた。その反面際立ったのが悪役であるルドガー・ハウアー扮するロイ・バッティだ。その悪魔的な表情の美しさ、哲学的な言葉と、プリスの血で化粧をしたり、戦闘中に窓から吠えたり、白ハトを抱えたりと全く無意味と思える魔術的な仕草が私を魅了した。加えて人工美の頂点を極めるレイチェルのどこまでも無表情な妖艶さ。歩き方や煙草に火をつける仕草一つまで洗練されたこだわり、ピアノを弾く際のギリシャの女神の彫像の様な肌の白さが実に美しかった。更にはタイレル博士の眼鏡、粋なガフの服装、ハレハレ躍りをする町の僧侶、マヤの遺跡を思わせる建物の形状や柱の模様など、端役の服装や壁面に至るまで一切の妥協のないこだわりが圧倒的な世界観の源泉である。「スターウォーズ」に由来する細部への製作者の徹底的なこだわりが、観客を作り物ではないリアル世界に引きずり込む重要なファクターとなる。そしてホールデンやデッカードが行うテストの不可解な言葉の意味深さ、デッカードの人生の悟りのモノローグ、レイチェルの女郎蜘蛛の思い出、中国系眼球製造技師を殺す際やデッカードを助けた時の神話を語る様なバッティのメッセージなど科白一つ一つに全く手抜きがない。ロボットは人間になれるか?という鉄腕アトムを初めとするSFの永遠の命題に、”記憶の製造”という要素が加えられ、且つこれらの科白が、ともすればB級カルトだった映画を後々まで語り継がれる崇高な作品に引き上げたのである。

この映像がブレードランナーのイメージとして最初に摺り込まれてしまったために、その後リバイバル上映を劇場で観たら、そのイメージのギャップにがっかりしたものだ。何よりも世田谷の場末の小さな映画館だったのがいけなかった。画面は小さいし、音は最悪だった。ヴァンゲリスのBGMも音が非常に小さく盛り上がらなかった。さらにカットされた暴力シーン(タイレルの目をバッティが潰して血が出るシーンなど)が生々しく、一緒に観にいったツレからはホラー映画と言われてしまった。また、デッカードがレイチェルに無理やりキスするシーンもテレビではカットされていたが、なにか暴力的レイプシーンみたいで気まずくなった。更に一番がっかりしたのはルドガー・ハウアーの声が高すぎる!特に最後の吠えたり歌ったりしながらハリソン・フォードを追いかけるシーン。吹き替えの寺田農の声が高すぎず低すぎず実に威厳のあるいい声だったが(あと、タイレルの大木民夫の声も良かった)、劇場の方ではもっとイカれたルドガー・ハウアーの狂人ぶりが強調されてしまった。
また、字幕もおおざっぱ過ぎて酷かった。あれでは略し過ぎて殆ど内容がわからない(例えば、デッカードがブライアントに仕事を断るシーン。「二度とヤル気はないね」→「なめんなよ」はねぇだろう!なんじゃそりゃ?)。

更にその後、友人から「完全版」のビデオもいただいたが、テレビでは無かった上下の黒枠が太すぎて画面が小さい(笑)。これは私のテレビが悪いのだが・・・。
音楽もテレビ版の方が必要以上に音が大きくて良かったなぁ。あれはむしろ編集ミスなんだろうか?

そしてやって来た1992年「ディレクターズカット」版、喜び勇んで劇場に観にいったさ。今度は有楽町(確か、いや新宿だったか?)の大画面だから間違いない。しかしまたがっかり。ユニコーンのシーンはもろに「レジェンド」じゃないか。最後のデッカードとレイチェルの逃亡シーンもショーン・ヤングの笑顔が実に美しくて結構好きだったんだよなぁ。まあ最後の無意味な山のシーンは「シャイニング」から盗って来たものだから要らないにしても、あの二人で光の中笑い合うシーンは残しておいてもいいんじゃないかと思った。やっぱりハッピーエンドの方が俺は単純に好きだなぁ。扉が閉まるシーンで唐突に終わるのは尻切れトンボみたいな気がして。

今回、新宿バルト9。音響もスクリーンも席も申し分なかった。まだ新しい映画館だけあって天井の高い駅の待合室の様なチケット売り場も、階段途中のカフェも大変洒落ていてどこか古風で、ブレードランナーの古くて新しい近未来社会の余韻をぶち壊すものではなかった。私は製作から四半世紀経って、漸く望んでいた映像美に出会うことが出来た気がする。スピナーから見下ろす未来世界の光の洪水。現代では全く雨が降らないロサンゼルスの降り注ぐ酸性雨に煙る2019年のセピア色の空、ともすれば不気味な芸者風日本人女性の大画面広告塔の戦慄。そしてTDK等のネオンをバックに鳴り響く壮大なるヴァンゲリスの音楽。その圧倒的な世界観は、今も尚、私を捉えて離さない。


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コメント 5

いぬ

私も「ブレードランナー」86年テレビで見ました。なんかピンとこなかったのですが。そーですかー、いいんですかー。
by いぬ (2008-01-05 17:52) 

はなれざる

そうですか!見てたんですか!まあ映画の好みなんて人によって違いますからねぇ。余談ですがこの映画は女性にウケが悪い様な気がします。当時、一緒に観にいった女性に酷評されたし、ぴあの 良かった映画ランキング でも男性では高ランクなのに女性ではランク外だったし。ストーリーとか大雑把ですからねぇ、レプリカントの人数、勘定合わないし。(笑)
by はなれざる (2008-01-10 22:38) 

はなれざる

nexus_6さん nice!ありがとうございます!
by はなれざる (2008-01-22 22:35) 

nexus_6

はなれざるさんの文章、読み応えがありますよ。
攻殻...も好きですが、どうしても後発がブレードランナーに到達出来ない理由、それは生けるもの(勿論レプリカントも)の言い表せない哀しさと、ヴァンゲリスの音楽にある気がします。
by nexus_6 (2008-01-26 09:04) 

はなれざる

nexus_6さん、コメントありがとうございます!
 嬉しいです。全然詳しくないんですが、大好きなもんでつい言葉に力が入ってしまいました。私は、この映画の魅力は詰まるところ”変さ”にあると思います。エンタメ性の無さ・かっこ悪い主役・必然性の無いカットといったちぐはぐを、狙わずにやってる所がこの映画を孤高なものにしていると思います。続編ができない真の原因もそこにあるのではないでしょうか。
by はなれざる (2008-01-27 21:55) 

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