素材が台無し「エリ・エリ・レマ・サバクタニ」 [映画/DVD感想]
題名もいい。世界観もいい。音楽もいい。浅野の起用もいい。だがこの眠さはどうだ。
2015年、感染すると自殺したくなるという「レミング病」が大流行する世界、浅野忠信扮するミュージシャンの奏でる音が唯一の治療薬であった・・・。おお!なんかこのストーリーを聞いただけでもSF魂をワクワクさせる内容ではないか。オープニングの、赤茶けた荒廃した砂浜(釧路らしい)にガスマスクを付けた二人が、無残な自殺死体が横たわるテント等を巡って音をサンプリングするシーンは実に格好いい。ジャズっぽいサックスの効いたBGMもいいし、赤い砂漠や風車のオブジェは、「ゼイラム2」のオープニングのシーンを彷彿とさせどこか別の惑星の様な、近未来のイメージを増幅させる。疫病で死滅した世界の調査をする二人はまるで「12モンキーズ」のブルース・ウィリスのよう。YMOの「BGM」や「テクノデリック」、アート・オブ・ノイズに代表される80年代に一世風靡した雑音を集めて芸術化したサンプリング音楽が、「レミング病」の特効薬の正体か?と期待を抱かせる。
ところが、実際の音はというと「エレクトリック・ドラゴン80000V」張りのエレキがギュルンギュルンいう単なる騒音なのである。ねえねえせっかくサンプリンングしたノイズ群は全然聞こえないよ~意味ないじゃん、と思わずツッコミを入れたくなる音のうるささ。おまけに途中から風景も妙にのどかになり、緊迫感が盛り下がっていく。他の脇役は全てミスキャストでテレビでよく出る俳優たちだけにイメージがダブって感情移入できない。宮崎あおいなんてアヒルと暮してるイメージしかないよ(爆)。FM東京が協賛のためか、ラジオ放送に注目するが近未来のイメージに合わない。そもそも今時、音楽が世界を救う、なんていうコンセプトが古いだろう。生物兵器など匂わせつつも「レミング病」の謎の掘り下げも中途半端で終わってしまい。現代の3万人自殺社会への警鐘にすらなっていない。
最後、浅野が宮崎あおいの病気を治すためギターをかき鳴らすシーンもヘビメタのアーティストみたいで全然まぬけ。浅野を真面目に使い過ぎ。もっと飄々したとぼけたぬぼーとした味わいを出さないと、ただかっこいいだけの浅野忠信を出されても黄色い歓声を放つ馬鹿な女性ファンはいいかもしれないが我々男性はちっとも面白くないぞ。回想シーンで出てくる浅野の昔の彼女(レミング病で死ぬ)も彼女自身の謎めいた妖艶な魅力は良いと思うが浅野には不似合い。そもそも浅野の相棒も彼女もペンションのオーナーも浅野自身も宮崎あおいも性格描写が全く希薄で人物設定が全く見えてこない。ストーリー等設定の良さに溺れて人間を描くこと忘れてしまった駄作の典型だ。
ラストシーンもただ浅野の部屋を映してるだけで捻りもない。誰か突然自殺しても、ああ病気のせいか、で何の秘密めいた衝撃もない。そもそも感情移入ができないから悲しみも同情も湧かない。
音を延々と編集するシーンなどとにかく無意味なシーンが多過ぎて眠気を誘う。
せっかく素晴らしい食材を持っているだけにそれを活かせずコロしてしまったことが実にもったいない、残念な映画だった。
エレクトリック・ドラゴン 80000V スペシャル・エディション
- 出版社/メーカー: ジェネオン エンタテインメント
- 発売日: 2002/02/22
- メディア: DVD
インビジブル・サイレンス - アート・オブ・ノイズ
http://music.goo.ne.jp/artist/artistcd.php?id=176611-1
発売日 - 1992年2月21日
発売元 - ポニーキャニオン
品番 - PCCY-00317
盤種 - CD
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