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リズミカルな奈落「嫌われ松子の一生」 [書籍/漫画感想]

嫌われ松子の一生 (上)

嫌われ松子の一生 (上)

  • 作者: 山田 宗樹
  • 出版社/メーカー: 幻冬舎
  • 発売日: 2004/08
  • メディア: 文庫


 そのヘンテコな題名が単純に目に止まって、本屋の店先でパラパラとめくった。なんだ、在り来たりな俗っぽい女の転落物か、と思って買わずに帰った。映画化の話も後から知ったぐらいだ。ところがその後もなんとなく気になリ、翌日もまた立ち読みをしてしまった。その翌日も何ヶ所か拾い読みし、結末まで見てしまった。普通ならここまでしたらもうその本は買わない。ところが読めば読むほどその場面、展開がどうしてそうなってしまうのか、気になって仕方がない。そして遂に上下巻購入してしまった。案の定、結末がわかっていてもグイグイ引き込まれる展開、あっという間に読めてしまった。久し振りに先の展開が気になる小説に出会った気がする。通常、女一代転落人生記なんていうと昼メロのようなドロドロしたイメージがあるが、この小説は全く救いがない内容にも関わらず、場面場面を読み終えた後、スカっと爽やか、まるでビールの最初の一口の切れの良さのように爽快感さえ漂う小気味良さに満ちている。とにかく話のテンポが良い。主人公松子や脇役めぐみのサバサバした性格の反映したように次々と起こる事件・現実を引きずらずに流し、リズミカルに行動が進んでいくところが読者を飽きさせない。特に私は飽きっぽいので、ダラダラした心理描写などうんざりしてしまうのだが、本小説はそうした心の葛藤表現を最小限に食い止め、あくまでストーリー展開を重視した内容となっている。その結果、「それは有り得ねーだろう!」と思ってしまうような非現実的展開、松子の極度に短絡的な行動、偶然が重なるご都合主義的な筋立ても、ふんふんなるほどと納得させられてしまうのだ。いや、それにしても凄まじい転落人生、こんな展開は絶対にないよとは思っても、果たして世の中にゴマンといる風俗嬢の方々はどの様な経緯でそうなったのかは知る由もないことを考えると誰だって子供の頃からその様な人生を送るとは夢にも思っていないだろう。まして松子ほど転落人生でないにしても私自身、人生の転機にあーしていれば、こーしていればと思うこと山ほどあるし、「私は今まで後悔なんか一度もしたことない」なんて外向きな発言を言ってる奴の方が逆に信用できない。後悔したことない奴なんていないだろう。そして人生の一寸先は闇。それは松子だろうが我々だろうが、誰だろうが程度の差こそあれ、皆同じなのだ。特に今の社会では。
 人生を生きるのに必要なもの、食べ物とかそういった物理的なものの他に必要不可欠なものが”目的”か”快楽”である。目的は大金、異性、社会的地位や名誉、マイホーム、子供を有名大学に入れる事、などなど人により様々である。快楽も睡眠、大食、セックス、酒、賭け事、麻薬等々たくさんある。もちろん目的だけでは辛くストレスも溜まるし、快楽だけでは自堕落に溺れて破滅するので両方少しずつあればバランスが取れて申し分ないのだが、残念ながら大半の人がどちらか一方に偏った生活をしている。言わば、例えば方や仕事に追われて寝る暇もないサラリーマン、方や生きる気力もなく地べたに横たわるホームレス。松子の人生は正にこの偏った局面局面を反映した人生であったように思う。それは格差社会と言われる今のゼロサムの極端な世相を反映しているとも言える。私自身、いや今を生きる同世代の多くの人がこの15年余りの間に味わった喪失感、絶頂と底辺を端的に表しているからこそ、共感を呼ぶのだろう。順風満帆の退屈な人生が本人も抗えない、スリリングな、何か社会の大きなうねりの様なものに動かされ(でもその時は原因が全くわからない)、気がつくととんでもない所にいる、あれ?なんで自分はこんな所に居てこんな事をやっているんだろう、とふと我に返ることが私にも誰にもあるのではないだろうか・・・・・。
 最後に松子は、どこへ行くにも化粧を気にしている描写が目立った。ちょっと出かけるにも口紅を塗って、という記述が入った。最後、転落し切ってぼさぼさになった時、化粧をしなくなり、そこで昔の友達に会って、消えてしまいたくなったと言っている。松子の転落の原因はこの化粧にあったのでは?家族や他人に自分を必要以上に良く見せようと見栄を張り、常に周囲を気にし他人に振り回され、自分の本心を臨界点まで見せず、見せた時は爆発してしまうその人生の象徴が”化粧”という”取り繕い”なのでは?もっと早くすっぴんで人生を送っていればこんなことにはならずに済んだのに。改めて他人の目を気にせず自分の幸せだけを求めて生きる勇気の難しさを感じた。そして、この国において人生をリセットしやり直すことが限りなく不可能に近いことも改めて思い知った。

少女地獄

少女地獄

  • 作者: 夢野 久作
  • 出版社/メーカー: 角川書店
  • 発売日: 1976/11
  • メディア: 文庫


目を縫い合わせた様な表紙のショッキングな絵と題名に惹かれて購入。内容は期待したほど衝撃的ではなかったな。第三者をして主人公の女性を語らせる手口は「嫌われ松子」に似てなくもない。手紙形式という形も面白い。でも主人公の転落動機にいまいち納得がいかない。しかし救いの無さに関してはもう、どん底級。それにしてもさすが狂人、こんな文章が思いつく頭の中は一体どうなっているのか・・・・。



悪女について

悪女について

  • 作者: 有吉 佐和子
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 1983/03
  • メディア: 文庫


「嫌われ松子・・」と小気味良いテンポのストーリー展開がある意味似ている。段々と謎が明かされる推理小説風な所も。ただ、主人公の女性本人は決して語らず飽くまで第三者の証言に語らせる手口はこちらの方が徹底している。転落度合いは「松子」の方が上。この小説はどちらかというと女性の成り上がりもの。但し、結末の救いの無さは一緒だが。本人に救いがない分、せめて次世代に自分を思ってくれる人がいるという希望を残した所も似てる。


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